ハイブリッド車並みの低燃費、マツダ「SKYACTIV-G」と「SKYACTIV-D」
2016/02/14
とっぱらや
ロータリーエンジン復活を夢見るマツダ。その足掛かりとして、『マツダ・RX-VISION』が東京モーターショー2015で公開されました。マツダはこのRX-VISIONにどのようなロータリーエンジンの未来を見据えているのでしょうか?
「百聞は一見に如かず」です。まずはその名が示すとおりに、VISION(=視覚)でRX-VISIONとはなんなのかを感じ取ってみましょう。
主要諸元 Mazda RX-VISION
乗車定員/2名
全長×全幅×全高/4,389mm×1,925mm×1,160mm
ホイールベース/2,700mm
エンジン/SKYACTIV-R
駆動方式/FR
タイヤ/前:245/40R20 / 後:285/35R20
リム/前:9.5J / 後:11J
この見た目でスポーツカーではないとは言えません。それもただのスポーツカーではなく「マツダのスポーツカー」というイメージが強いように思えます。
ロングノーズ&ショートデッキという定番のFRスポーツのスタイルは、過去にマツダが販売していたRX-7・RX-8と同じですが、RX-VISIONではその二つの良い所をそれぞれ取り入れたデザインに仕上がってるように感じます。
スポーツカーとしての見た目も重要ですが、スポーツカーとしての中身はもっと重要。
とはいえ、今回はコンセプトカーということで、細かい諸元表があるわけではありません。そこでマツダの公式HP上でのRX-VISIONに対するこの一文
ひと目でスポーツカーとわかるパッケージに、圧倒的に低いボンネットと全高を可能にする次世代ロータリーエンジン「SKYACTIV-R」を搭載し、オンリーワンのFRプロポーションを生み出しました。
マツダが提唱する「SKYACTIV(スカイアクティブ)」。既にマツダが販売する多くの車種で使われていますが…どうやらこの「SKYACTIV」の部分にRX-VISIONへのヒントが隠されていると思われます。
マツダの低圧縮型ディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」
「マツダのSKYACTIV」と言うと、エンジン技術のイメージが強いのではないでしょうか?
確かにクリーンディーゼルである「SKYACTIV-D」やガソリンエンジンでの「SKYACTIV-G」というところが有名でははありますが…実はそれだけじゃないんです。
マツダのHPには『SKYACTIV TECHNOLOGが生まれたわけ』という紹介ページがあります。その中の見出しの一つが
クルマというのは常に細かいパーツ単位での見直しがされています。強度を落とすことなくボルト1本でも削減できたら…なんてことを常に設計技師達は考えています。
ボルト1本でも改良したい世界で、エンジンという大きなパーツが改良されたらどうなるか?エンジンの出力に合わせた足回りやボディ剛性…あらゆるところを初めから考え直さなければなりません。
SKYACTIV TECHNOLOGはエンジンだけでなく、ミッション・ボディ・足回りなどクルマの走行性能にかかわる部分に関連する技術。ディーゼルエンジンの「SKYACTIV -D」等はその一部分に過ぎないのです。
エンジンだけでは『SKYACTIV』とはならない
残念ながらこれもエンジンの諸元がないため一切不明。分かるのはRX-VISIONでの紹介文「圧倒的に低いボンネットと全高を可能にする次世代ロータリーエンジン」と言う部分のみ。数少ない諸元表の中からその全高は1,160mmという事ぐらいでしょうか。
非常に低い車高。1,160mm
改めて横からその姿を見ると、先代RX-8・先々代RX-7のそれ以上にロングノーズ&ショートデッキのスタイルになっています。全体的にボディの高さを低く抑えることは、低重心化につながるのでスポーツカーとしては理にかなっています。
しかし、元々エンジンとしてはコンパクトであるロータリーエンジンを収めるエンジンルームを、ロングノーズのデザインの為にここまで大きくする必要があるのでしょうか?まだコンセプトの段階ですが気になるところ。RX-VISIONのこのスタイルは単なる見た目だけではないはず…。
RX-VISIONのSKYACTIV-Rが「次世代のロータリーエンジン」であるということ以外は詳細は不明で、その全容を掴む事は出来ません。
ですが、過去のロータリーエンジンの歴史なら振り返る事が出来ます。「ゼロからの見直し」という考えに習って、その歴史を振り返ればロータリーエンジンの見直すべき事が見つかるはず。それがRX-VISIONを知る鍵になるかもしれません。
現代においても課題となっている排気ガスは主にHC・CO・NOxの3種類から構成されています。
HCは未燃焼ガス。COは一酸化炭素でこれは不完全燃焼したときに発生します。NOxは燃焼室内に空気として取り込んだ窒素が高温高圧下で燃焼してしまうことで出来るものです。
ロータリーエンジンはこのうちのNOxの低減が期待されていました。燃料を燃やして、その熱エネルギーで動くのがエンジンですから、この時の熱で発生するNOxの低減が期待できるロータリーエンジンは低公害だと考えられていたのです。
ドイツのヴァンケル氏が発明したロータリーエンジン開発のため、当時のNSUとマツダは技術提携するわけですが、NSUの試作エンジンは使い物にならない品物でした。
様々な問題がありましたが、特に深刻だったのが三角形のローターがエンジンハウジングの内壁を傷つけるチャターマーク。当時は「悪魔の爪痕」とも言われ、連続40時間でエンジンが停止する状態でした。
それらの問題をマツダは一つずつ解決させていき実用化可能なロータリーエンジンとして完成させていきます。当時NSU・ダイムラーベンツ・フォードの3社が研究して合計600件あまりの特許を出していましたが、対するマツダ1社だけで1300件あまりもの特許を出しています。ロータリーエンジンといえばマツダというイメージは、この研究成果に対する評価であるともいえます。
NSUからの試作エンジン(左)とチャターマークで傷ついたエンジンハウジングの内壁(右)
実用的なロータリーエンジンの開発には成功しましたが、世界で量産技術を有しているのはマツダのみ。何故このような状態になったのか?それはロータリーエンジンの特性と第一次オイルショックの影響があります。
当初はNOxの低減で期待されたロータリーエンジンでしたが、なぜNOxが低減できたのか?NOxは完全燃焼をすればするほど燃焼室内が高温になるので発生し易い物です。それが低減できていると言う事は…逆に言えば未燃焼・不完全燃焼を起こしていると言う事。燃焼室が縦長になっているので、点火プラグから遠い位置では燃焼し難いことが原因の一つです。これはHC・COが発生している事を意味しています。
更にロータリーエンジンは燃焼室の温度が低いエンジン。燃焼室の表面積が大きくて、燃焼室もローターの回転によって移動します。この間にエンジンハウジング等からドンドン熱エネルギーを奪われてしまうのです。ローターのオイルシールがゴム製なのも、熱エネルギーが奪われている事を意味しています。この熱エネルギーの喪失による燃焼温度低下は更にHC・COの発生を誘発します。
これらの要因が意味している事とは?それは燃費の悪化です。燃焼室内に入った燃料はそのまま燃焼することなく排気され、更に燃焼によって得られた熱エネルギーさえも無駄になっていくのです。現代においてもロータリーエンジンの燃費向上は最大の課題です。RX-VISIONでもここが一番ネックになってくるところだと思います。
第一次オイルショックはそんなロータリーエンジンの燃費の悪さには大きな打撃となります。多くのメーカーがロータリーエンジンから撤退したのもこのタイミングでした。
そんな第一次オイルショックの影響を受けたロータリーエンジンですが、意外なところで利点が生まれます。
燃焼室の温度が低い事と、ローターの回転運動をそのまま取り出す構造なので、ノッキングし難いということです。そのノッキングのし難さからガソリン以外の燃料の利用も考えられています。
その最たる例が水素ロータリーエンジンです。水素の燃焼と言うのは非常に急激で爆発的なものです。理科の実験で水素の燃焼実験をやればわかりますが、非常に大きな音がします。それだけ大きな音を発生させるだけの急激な燃焼が起きているということです。通常のレシプロエンジンではこの燃焼を扱うのは難しいのです。
この水素ロータリーエンジンは既にマツダが手がけています。また水素を燃料とした自動車で問題となる水素ステーションのインフラ整備も現在進められていますので、そのインフラ整備の進捗次第ではありえなくはないのでは?
第一次オイルショックでのロータリーエンジンの逸話と言えば、ガソリンに灯油や軽油等を混ぜて走ったと言う話があります。その行為自体ははさておき、確かにノッキングしやすいような粗悪燃料でもロータリーエンジンは動くと言うのは事実です。
しかし、いくらマツダが低圧縮比ディーゼル「SKYACTIV-D」で実績があると言っても、それをロータリーエンジンに?
過去にあったロールスロイス原案のディーゼルロータリー
あるんですね…過去にそのような案が。ローター2つによる2段階圧縮。得られた燃焼ガスを二つのローターでそれぞれ受け止めて出力する形のようです。しかし、これではRX-VISIONのボンネットに収まるロータリーエンジンとはなりません。
確かにレシプロエンジンでのディーゼルというのはまだまだ改良の余地はあり、ガソリンエンジンに比べて熱効率がいいのも事実。とはいえ、それをロータリーエンジンでやるメリットは少ないと思います。
RX-VISIONは搭載するSKYACTIV-Rによって圧倒的なボンネットと全高の低さを可能とする…この一文を元にして考えると、実にシンプルな仮説が成り立ちます。
それはロータリーエンジンその物を小型化するというダウンサイジングという方法。実に単純ではありますが、現代のエコカーはエンジンそのものを小さくして、その分減ってしまった排気量と出力をターボやスーパーチャージャー等の過給機で補うというのが主流となっています。こうすることで実質的な排気量と出力を維持しながらエンジンを小さくする事で、クルマ全体としては軽量化と燃費向上が期待できる…というわけです。
RX-8に搭載された13B型のロータリーエンジンは自然吸気ながら250馬力を達成していました。RX-VISIONでは、次世代ロータリーエンジンであるSKYACTIV-Rが搭載されると言う事から、13B型とは違うロータリーエンジンとなる可能性は十分にあります。
2015年5月13日にトヨタ・マツダは業務提携を発表。
トヨタとマツダの間で業務提携を結んだことは大きな話題となりました。
今後、両社で組織する検討委員会を立ち上げ、環境技術、先進安全技術といった分野をはじめとする、互いの強みを活かせる具体的な業務提携の内容の合意を目指していきます。
この業務提携の発表もあり、マツダの強みである「SKYACTIV-D」を用いた、ディーゼルハイブリッドが現実味を帯びてきました。当初はトヨタとマツダの関連性は疑問視されていたのですが、SKYACTIV-Dにはデンソーのコモンレールシステムが搭載されているので、そのデンソーの筆頭株主であるトヨタとしてはマツダがSKYACTIV-Dの技術で他社と提携されては困る…という一面もありました。
しかし、マツダのほうも全くハイブリッド等に無頓着だったわけではないのです。
レンジエクステンダーを搭載したデミオEV
レンジエクステンダー用のロータリーエンジン
さらにロータリーエンジンは電気自動車の航続距離を伸ばす技術にも活用が検討されています。小型・軽量でありながら高出力、かつ静粛性の高いロータリーエンジンのメリットは、電気自動車の分野においても最大限に発揮できるとマツダは考えています。2013年11月に発表されたデミオEVは、トランクスペース下に搭載されたロータリーエンジンのレンジエクステンダーによって、従来の倍となる400kmの航続距離を達成できる可能性をもつクルマです。
はて?レンジエクステンダーとはなんなんでしょうか?一見するとロータリーエンジンを発電機として走行距離を伸ばす装置のようですが…。
このロータリーエンジンで発電を行うことで、航続距離をデミオEVの200kmから2倍の400kmに引き上げた。燃料はレギュラーガソリンで、燃料タンク容量は9L。燃料タンク容量を増やせばさらなる航続距離を実現することは可能だが、米国のレンジエクステンダーの定義づけの部分で、ベースとなったEVの航続距離の2倍以上とならないよう定められているため。逆に言えば、400km(200kmの追加)とするため、燃料タンク容量が9Lに抑えられている。
なんとガソリン9リットルで200km!単純計算で22km/ℓの燃費!
原理的にはエンジンを発電機として用いるシリーズ式ハイブリッドカーです。レンジエクステンダーの定義によってタンク容量が制限されてるだけの話です。
ロータリーエンジンの低速領域において特に燃費が悪く、トルクも細いという特性があります。対してモーターは逆に低速領域ほどトルクが大きいという特性なので、ロータリーエンジンの悩みの種である低速領域をモーターアシストすると言うのは理にかなっているかと思います。
ハイブリッドシステムを搭載予定の2代目NSX。駆動輪に独立したモーターを搭載する事で、さらにその走りに磨きをかけるという。
実際にRX-VISIONにそのようなシステムが導入されるかはわかりませんが、既にホンダの2代目NSXではハイブリッドシステムを搭載して市場に投入される予定です。
既にハイブリッドシステムというのはただのエコカーシステムという域を超えて、走りを追求する手段となっています。むしろロータリーエンジンのフィーリングはモーターのそれに近い物があると言う人もいるので、RX-VISIONにモーターという組み合わせは決して悪くないのでは?
そう考えるとRX-VISIONにはロータリーエンジンとミッションの間に、発電機を兼ねたモーターを搭載するパラレル式ハイブリッドあたりを採用する可能性があります。
パラレル式ハイブリッドは従来通りの変速機(トランスミッション)を用いる必要があるが、スポーツカーであればMTを選択できることはメリットとも言える。
スポーツカーなのでどうしてもその外観や性能が気になるところですが、RX-VISIONのインテリアにも注目してみましょう。
インテリアは、シンプルさと力強さを極限まで追求するとともに、職人が手づくりで仕上げた風合いと、精緻なマシン表現を融合させたデザインとしています。精緻な計器類を配し、マシンらしさを追求したコクピット、シンプルな形状のインストルメントパネル、本革仕立ての馬の鞍をモチーフとしたセンタートンネル部を覆うトリムにより、緊張感がありながらも、手づくりによる温かみを感じる上質な空間をつくり上げました。
馬の鞍をモチーフとはどのような見た目なのか…!
本革で仕立て上げられ、余分な物はないシンプルなデザインです。RX-VISIONのインテリアはシンプルであると述べられていますが、本当にシンプルです。しかし、シンプルさの中にこだわりも感じられて上品な仕上がりです。
RX-VISIONのシフトノブ周辺
シフトノブは金属部がむき出しの状態です。周りの本革とカーボンによって黒に囲まれている中で、金属のシルバーカラーが映えます。
シフトノブそのものもは非常に短く、手首の返しだけでもシフトチェンジできるような作りに見えます。この辺はマツダのロードスターの影響でしょうか?
マツダ・ロードスターでのシフトノブへのこだわり
FRといえばハンドリングの面が強調されがちですが、シフトチェンジは素早く一瞬のうちに終わらせる物。ですが、その一瞬のシフトチェンジにもクルマを操るという楽しさが秘められており、ドライビングテクニックの一つでもあります。
RX-VISIONのシフトはロードスター譲りの軽快なシフトチェンジとなるかもしれません。
運転席周りを見ても走りに不要な物は排除されたシンプルなデザインです。
と、ここでメーターに注目していましょう。
タコメーターを見ると8000rpm辺りからレッドゾーンになっていますね。ここから察するに、RX-VISIONに搭載されるSKYACTIV-Rは、少なくともRX-8の様な高速回転型ではないと思われます。
なぜならRX-8の13B型ロータリーエンジンが最大馬力を発揮するのは8500rpm。レッドゾーンはそれ以上となっています。RX-VISIONのタコメーター以上に回るようになっています。
となると、RX-VISIONで最大馬力を発揮するのは7000rpmよりも低い領域と思われます。RX-7に搭載されていた13B型ロータリーエンジンの場合は6500rpmで最大馬力となるように設定されていたので、RX-VISIONはそれに近い物かもしれません。
またこの事はハイブリッドシステム搭載している可能性も示唆しています。実はモーターアシストが有効となる領域は低速から中速領域まで。
これは回転するモーターが発電機としても働く「逆起電力」という現象によって、高速回転域になればなるほどトルクが細くなり、やがてそれ以上は回転数が上がらないという状態になります。
もし仮にRX-VISIONにハイブリッドシステムによるモーターアシストがある場合、そのモーターのトルクが発揮できる中速領域に合わせて、エンジンの出力特性を中速で最大出力となるように調整する…こうした場合、それ以上は高速回転させる必要がなくなります。タコメーター上でも8000rpm付近まで回す必要がなくなるので、そこからレッドゾーンと設定するということができるのです。
今回はまだコンセプトという段階ということもあり、様々な憶測による話ばかりになってしまいましたが、いかがだったでしょうか?
最後はインテリアの話にするつもりだったのですが…やはりスポーツカーであり、しかも次世代ロータリーエンジンともなればその性能が気になって仕方がありません。
今後はより市販されることを見越してのデザイン変更等があることでしょう。それに合わせて謎に包まれた『SKYACTIV-R』の姿も見えてくるかと思います。
マツダのRX-VISIONには、今回の憶測を良い意味で裏切ってくれる事を期待したいところです。
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